愛と義のまち米沢エッセイコンテスト 金賞受賞作品一覧
第3回 金賞『最後の社員旅行~米沢で救われた言葉~』 岡 弘さん(神奈川県)
 「これが、最後の社員旅行かもしれない」

 社長の私は、社員に明るく振舞っていたが気持ちは重く沈んでいた。前年の秋口に始まった米国を発端とする経済不況は、私の小さな工場の経営も直撃し、このままでは廃業か少なくとも数名の人員削減が必要だった。

 冬空の下、解雇を告げるのは辛い。ましてや未曽有の不景気の中である。救えないものかと心が痛んだ。そんな中の旅行だった。

 旅行の行き先は、社員達が相談して選んだその年の大河ドラマの舞台で、人気の場所だと言う。私は、九州の出身で歴史もあまり詳しくなく、山形、米沢と云う土地も初めての訪問だった。宿泊先の上山温泉で、宴会で大騒ぎする十三名の社員を見て、益々辛くなった。皆仲間なのだ。それぞれ苦労を抱えて、家族を養い、私の仕事を助けてくれていた。

 翌日も、観光バスで何箇所かを廻った。バスガイドさんが、景勝公は、会津百二十万石から米沢三十万石に移封されても、一人もリストラをしなかった、と説明する。身につまされた観光センターでの休憩時間に、ガイドさんに「上杉さんは偉いなあ」と言い、それとなく経営の厳しさを話した。弱音に聞こえたかもしれない。彼女は笑顔で頷いてくれた。

 夕方、米沢駅に着いた。社員旅行も終わりになった。ガイドさんに2日間のお礼を言うと、彼女は、「私は難しいことは解りませんが、2日間御一緒してこれだけは言えます。社員の方は、皆さん、社長さんのことが大好きなのだと思います。頑張って下さい」と言ってくれた。私は、涙が出そうになるのを堪えて「ありがとう」とだけ言った。何の飾りもない言葉だけれど、どんな経営セミナーの偉い講師の言葉よりも心に響いた。

 あれから4年。結果的に私は、社員を減らすことなく、何とか今でもやっている。米沢で救われたのは、この私なのかもしれない。

 私の机の上には、今も「愛」の文字の付いた鎧兜のレプリカが置かれている。