愛と義のまち米沢エッセイコンテスト 金賞受賞作品一覧
第7回 金賞『桃売り場の前で』 佐藤恵美子さん(福島県)
 東日本大震災後に群馬県で住み込みで働いた。毎日、下ばかり向いて生活していたせいか、いつも通うスーパーに二階売り場があることを知ったのは一年以上も過ぎてからである。エスカレーターで昇れば衣料品・書店・百均の店など実は広い大きなショッピングセンターだったのだ。又、福島では震災前からスーパーのレジ袋は有料になり資源の大切さとの連帯感もあり納得していたものだ。こちらではどのスーパーもレジ袋は何枚も無料である。大手スーパーの全国的な取り決めでないことも他県で知った。何か矛盾を感じた。

 夏、お中元売り場に福島の桃が凛と鎮座していた。五キロの箱に入り輝いていた。嬉しくてその場に立ちつくした。一人の買物客が「福島の桃はネェ。相手様に悪いので贈れない」と大声で言っていた。調子に乗った女店員が「その通りですネ。フ、フ、フ」と客に同調して笑った。私はその場に固まってしまい何とか言いたい一言を探していた。その時だった。近くにいた年輩の紳士が店長を呼んだ。「福島の桃をここに陳列していることはすべてに異常がないことの証明でしょう。店員教育をしっかりやりなさいよ」それから店長と店員の二人を並べて「福島の桃はしっかり検査を受けて売り場に置きますのでご安心の上、お買い求め下さい。大きな支援にも繋がりますよ」と対話の方法まで笑顔で話していた。全部、私の言いたい言葉だった。「福島から来ています」と頭を下げると、その方は「私は山形の米沢出身なので悔しくてネ。東北の皆さんの頑張りについつい出過ぎたマネをしたかな」と片手をヒョイと挙げてその場を去って行った。その後姿はまぎれもない米沢藩の正義の武士だ。

 私は六年間、住み込みで働き続け福島に戻った。他県でのあの出来事ごとと格式高い米沢のあの武士のことを時々、思い出している。